なぜフランスではキスで挨拶するの?

フランスでは、親しい人が挨拶するとき「キス」をする習慣があります。キスといっても頬を寄せ合って、あたかもキスをしたかのようにチュッと音を出すだけですが、なぜフランスではこのようにするのでしょうか?

フランスのキスはローマ帝国時代の名残り?!

キスの文化は古代からあったといわれています。
2000年前、ローマ帝国では3種類のキスがありました。

情愛のキス バーシウム

1つ目は「バーシウム」と呼ばれるもの。
同じ家族に属していることの印として、また妻や子供に対する家族間で交わされるものでした。
情愛のキスといえます。

儀式のキス オスクルム

2つ目は「オスクルム」。
唇を閉じたままキスをするもので、社会的に同じメンバー間の尊敬を表すためや儀式の際に交わすものでした。

このキスは清らかなもので、他人の前でも行うことが許されていました。
また古代ローマで妻が夫に毎日しなくてはならないキスも「オスクルム」だったのです。

夫婦間ですから1つ目の「バーシウム(情愛のキス)」と思いがちですが、法律的に決められていた
いわば「義務」のキスでした。
このキスは妻が当時禁止されていたワインを飲んではいないかを確かめる意味で
行われていたのです。

恋人のキス サーウィウム

そして3つ目は「サーウィウム」。いわゆる恋人とのキスです。

現在でも結婚のため市庁舎で公にキスをする場合、家族に入ることを示すように、
1つ目の「バーシウム(basium)」キスは今も残っています。
そして「バーシウム(basium)」は現在のフランス語の「le baiser(キス)」の語源
にもなっているのです。

中世では男性同士のみ許可されたキス

古代の終わりの後、男性と女性の間でキスをすることが無礼と見なされ、
禁止されました。
許されるのは騎士、聖職者だけ。
つまり男同士に限られました。

中世でも、高貴な騎士と聖職者のためにあり、男性の間だけでした。
契約を結ぶ時や忠誠のしるしとしてキスが重要な役割を果たしました。
その後ペストの流行のため、14世紀には禁止されるようになります。
まるで現在のコロナ禍のように…

50年前の挨拶は違った?

フランス革命後に再びキスが復活し、時間の経過とともに荘厳な要素を徐々に失いました。
そして優しさの印を表現するためにキスをするようになりました。

ヨーロッパの南にあるフランスではローマ人のアイデンティティが残っているようで
現在は家族間はもちろん、友人間でも日常生活のあらゆる場面で見かけます。

因みにフランスでも50年ほど前は親しい関係である場合のみキスの挨拶をしたそうですが
1980年代からは職場でもキスの挨拶をすることも増え、
現在は場合によっては初めての人にキスの挨拶をすることもあります。

挨拶としてキス行われる理由のひとつとして、相手を信頼していることを示すことがあります。
ある程度の近さを共有しながら、愛情、友情、または敬意を示す機会になるのです。

キスの挨拶をするのが照れくさい場合は…?

キスの挨拶はフランス文化ですから「郷に入っては郷に従え」なのですが、
やはり日本人にとってはなかなか慣れないものです。

もしどうしても抵抗がある場合は、「ちょっと風邪気味だから」といえば
相手に不快感を与えないようです。

参考文献:
Alberto Angela
Amore e sesso nell'antica Roma

(文・池岸マオ
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