【2020年バカロレア変更】フランスの学校制度と教育システムを徹底解説!
Study | 2020-06-30
フランスの学校は、9月に新学期を迎えます。
日本の学校制度とは異なる部分も多く、フランスで子育てする人にとっては、
「義務教育は何歳まで?」「学年の数え方は?」「バカロレアって何?」など、疑問に感じる点が多いでしょう。
今回は、保育所での就学前教育から高等教育まで、フランスの学校制度と教育システムについてまとめてご紹介します。
就学前教育 Ecole maternelle
義務教育が開始する前に、3年間もしくは4年間の就学前教育があります。日本でいうところの幼稚園に相当します。
就学前教育の目的は、義務教育の開始前に言葉に慣れ、文字の世界に触れることで、学習に向けた基礎を作ること。
また、座って先生の話にきちんと耳を傾けるなど、「生徒」になるための準備をすることも、目的のひとつです。
通学形態は2種類あります。1週間あたり24時間を週4日に配分する方法、もしくは半日通学を×9回行う方法です。
前者の場合、1日の授業時間が約6時間と長いのが特徴で、水曜日に休日を挟むのが一般的。後者の場合、水曜日の午後は休校となります。
フランスでは、公立幼稚園の数が私立幼稚園の100倍を超えており、国家による就学前教育への注力ぶりがうかがえます。
共働き世帯やひとり親世帯に向けた保育所も
フランスでは、出産後にも仕事を続ける女性が多いため、様々な種類の保育所も整えられています。
3カ月~3歳の子供を預けることができる公立の保育所(Créche collective)、親が保育参加しながら共同で運営する保育所(Créche parentale)、働いていない場合でも時間決めで子供を預けることができる託児所(Halte-garderie)などがあり、いずれも県市町村や家族手当金庫から補助金が出ます。
保育料は所得に応じて決まるため、私立よりも割安ですが、人気が高いために順番待ちになることもしばしば。この点は日本とも似ていますね。
義務教育
就学前教育が終わると、いよいよ義務教育に入ります。
フランスの義務教育は、原則として6歳から16歳までの10年間。
普通に進級した場合、16歳でリセの1学年に入りますが、小学校から落第や留年、飛び級の制度があるため、義務教育期間であっても、同学年に違う年齢の生徒がいることは珍しくありません。
学年と年齢の関係
フランスで子育てをする時や、赴任などで子供と移住した場合、「うちの子は何学年に入るの?」と悩んでしまう人も多いようです。
フランスの学校では、「西暦○年生まれの人が今年のCP(義務教育1年目)入学対象です」という形で告知を行います。
新学期は9月にスタートしますので、たとえば2014年生まれの子供たちであれば、1〜8月生まれの子は入学時点で6歳、9〜12月生まれの子供は5歳ということになります。
学年を考える場合は、年齢よりも子供の生まれ年をベースにすると分かりやすいでしょう。
ただし、場合によっては、通常より早く入学を進められることもあります。周囲の環境や、家庭の教育方針とあわせて検討するようにしてください。
義務教育中の休暇期間
義務教育中は、夏休みが約2カ月、冬・春・秋にそれぞれ約2週間ずつの長期休暇があります。
合計で年間約3カ月半程となり、日本の年間約2カ月半よりも1カ月程度長いのが特徴です。
初等教育 Ecole élémentaire(エコール・エレメンテーレ)
初等教育は、基準年齢6歳から10歳までの5年間です。
日本の小学校1年生に相当するのが準備コースであるCP(第11学年)で、年次が上がるにしたがって、学年の数字が小さくなります。学年の数え方が日本とは逆になるため、少し複雑ですね。
2・3年生が初級コース(CE1・2)、4・5年生が中級コース(CM1・2)となり、第7学年を修了すると、初等教育が終わります。
エコール・エレメンテーレの教育システム
日本の小学校低学年に当たるCPやCE1の時期には、フランス人としての基礎を築く目的で、国語(フランス語)と社会に重点が置かれています。
その他の科目としては、算数や音楽、美術、体育、外国語(英語、ドイツ語、地域言語などから1つ)があります。
CE2以上で初めて、理科や地理、歴史、文学、工芸などの授業が加わります。授業時間は1週間あたり24時間で、低学年でも高学年でも変わりません。
安全上の理由から、原則的に子供の送り迎えが親の義務となっており、日本のように子供ひとりで通学することはありません。共働き家庭やひとり親家庭では、ベビーシッターが代わりに送迎する場合もあります。
中等教育前期 Collège(コレージュ)
日本の小学校6年生~中学3年生までの4年間が、フランスでは中等教育前期のコレージュにあたります。
1年目が「第6学年」、最終学年が「第3学年」と呼ばれます。
コレージュの教育システム
日本では小学6年生となる第6学年は、フランスでは中学生扱い。まずは、コレージュでの勉強の仕方に慣れることから始まります。
第5学年、第4学年になると、物理や化学、テクノロジーの授業が追加され、初等教育の科目も数学や第三言語などにグレードアップします。
物事の仕組みを理解し応用できるような、思考力を鍛える教育が始まり、生徒によって授業へのキャッチアップ度合いにも差が出てきます。
第3学年では、更に選択科目が増え、ギリシャ語やラテン語を含めた外国語や、専門知識を身に着けるための授業などを選ぶこともできるようになります。
選択式で授業科目が増えるため、生徒によって授業数や登下校の時間も違ってくるのが、日本の中学との違いです。
高校進学前に将来の進路が決まる
コレージュの最終学年では、これまでの成績や本人の興味により、その後の進路について指導が始まります。
日本では高校に入ってから将来の進路を考える人も多いのに対し、フランスでは比較的早い段階で、職業やキャリアについて考えることになります。
選択肢としては、大学進学を目指すための「普通教育課程(Lysée général)」、工業分野に関する専門的な知識を身につけるための「工業高校(Lysée technologique)」、パンや製菓などの専門技術を身に着けるための「職業高校(Lysée professionnel)」への進学があります。
それぞれ、日本でいうところの大学、高専、専門学校のようなイメージでしょうか。
コレージュの修了時には、国家資格である中等教育修了資格証書(Brevet)を受け取ります。
中等教育後期 Lycée(リセ)
日本の高校3年間にあたるのが、フランスの中等教育後期である「リセ」です。
リセの種類によって、学ぶ内容が大きく異なります。
普通教育課程
普通教育課程は、日本でいうところの高等学校普通科のようなものです。
大学入学資格試験である「普通バカロレア」に向け、通常成績も評価されるようになるため、テスト以外も気が抜けません。
リセの1年生は「第2学年」と呼ばれ、必須科目(フランス語・哲学・歴史地理・道徳・第1外国語・第2外国語・情報科学・体育)を学びます。
2年次にあたる「第1学年」では、専門科目が3教科追加され、最終年でさらに2科目の専門科目を選択します。
専門科目には、外国の言語や文化、文学と哲学、歴史地理、経済社会、アート、生物学、数学、工学などがあり、大学で専攻したい科目に合わせて選びます。
工業高校
工業分野の職業に就くことを目的とする生徒が通う高校で、授業全体の半分ほどが技術的な科目に充てられます。
必須科目は、フランス語、地理歴史、外国語、政治経済、物理・化学、生命と地球の科学(SVT)、体育、道徳、統計・テクノロジー等です。
選択科目として、ラテン語、ギリシャ語、アート、経営学、ラボでの実験演習、バイオテクノロジー等があり、興味に応じて授業を受けることができます。
職業高校
特定の職種への就職希望者を対象に、職業資格の取得を目的とする教育が行われます。
2年制の課程修了時に受ける国家試験に合格すれば、「職業適格証(CAP)」や「職業教育免状(BEP)」といった国家資格を取得できます。
CAPかBEPかは職業によって異なり、食品や工芸品に関する資格はCAP、経理や秘書な
どの事務職はBEPにあたることが一般的です。
職業バカロレアを取得した後で、高等教育機関へ進学することも可能です。
バカロレアの方式が2020年から大幅変更に!
フランスでは、バカロレアに合格すれば、行きたい大学の学部に願書を出し、入学許可をもらうだけ。日本のような大学別の入学試験は行われません。
かといって勉強が楽かというと決してそうではなく、従来のバカロレアは、1科目あたり3時間程度の試験を7日間にわたって受けるという、過酷なものでした。
また、試験は全て論文記述式。特に、初日に行われる哲学の試験が難解であることで知られ、「バカロレア名物」と言われるほどでした。
そんなバカロレアが、2020年に試験内容を一新。
これまで文・理・経済系でわかれていたカテゴリを廃止し、哲学と選択科目2つ、および将来の学びに関するインタビューから成る試験形式に1本化されました。
試験日数も大幅に短縮され、受験生の負担は減った形です。一方、伝統の哲学試験の得点配分が減ったことなどから、若者の知性を弱体化させる恐れがあるという批判の声も上がっています。
高等教育
フランスの高等教育機関は、主に大学とグランゼコールに分かれます。
大学では広範な知識と教養を、グランゼコールではより専門的な知識を養います。
大学 Université
バカロレア取得者であれば、基本的にどの大学へも入学することが可能。ただし、各大学の入学定員数が限られているため、必ずしも希望の大学に入れるとは限りません。
学士課程は3年間、修士課程は2年間、博士課程は3年間です。
日本の大学卒業資格は、フランスでは大学院中退扱い?
日本の4年制大学の学士課程を卒業してフランスへ渡った人の中には、学歴の判定でややこしい思いをすることがあるようです。
というのも、フランスの学士課程は3年・修士課程は2年のため、日本の大学を卒業すると、「修士課程の途中」という扱いになるため。
フランス社会では、学士と修士では給与や社内の等級・肩書きに相当な違いがあるため、会社の判断によっては、収入や社会的地位に大きな差が出てしまいます。
任せられる業務の内容にも違いがありますので、契約の段階でじゅうぶんに交渉・確認を行う必要が出てきます。
グランゼコール Grande École
エリート養成機関と言われるグランゼコールは、国を牽引するための管理職や幹部を確保するため、フランス革命以降19世紀にかけて創設された、歴史ある教育機関です。
グランゼコールに入学するためには、高校卒業後、さらに2年間の準備学級(Classes préparatoires)を経て、「コンクール」と呼ばれる試験に合格する必要があります。
ただし、準備学級に入るためにも、バカロレアの成績による書類審査や、入学試験などの選考があり、非常に狭き門。いったんグランゼコールを卒業すると、企業入社1年目から管理職に就くなど、明確なエリートコースに乗ることになります。
グランゼコールの種類としては、エンジニア学校、高等師範学校、商業学校、獣医学校があります。中でも、政治家を輩出することで知られるエコール・ポリテクニーク、国立高等鉱業学校、国立行政学院(ENA)、HEC経営大学院(HEC)などが代表的です。
政治家はグランゼコール出身者の集まり
国家を率いるエリートを育てるという目的どおり、歴代の大統領をはじめとする有名政治家は、グランゼコール出身者で占められています。
ENA出身者は、ジャック・シラク前大統領、ヴァレリー・ジスカールデスタン元大統領、リオネル・ジョスパン元首相、アラン・ジュペ元首相、フランソワ・オランド社会党第一書記、セゴレーヌ・ロワイヤル社会党員などを輩出。
エコール・ポリテクニーク出身者には、カルロス・ゴーン元日産代表、ヴァレリー・ジスカール・デスタン元大統領、ノーベル経済学者のジャン・ティロールなどがいます。
フランスの教育費用
フランスでは日本に比べ、公立の教育費の自己負担が非常に少ないのが特徴です。
文部科学省の「図表でみる教育 OECDインディケータ(2010年版)」によると、全教育段階における教育機関への公財政支出の対GDP比は、日本が4.9%、フランスが5.9%となっています。
また、公立教育機関における日本での私費負担は1.6%に及びますが、フランスでは0.4%と、4分の1程度でした。
高等教育にかかる費用も非常に少なく、公立大学の学士課程であれば、年間3万円ほどの登録料を払えば、授業料は無料です。
家庭の貧富に関わらず高等教育が受けやすい教育システムになっていることからも、出身を問わず優秀な人材を発掘するという目的がうかがえます。
公立学校と私立学校の教育格差が拡大中
そんなフランスでも、近年、国の財政難により教育格差が生じ始めています。
要因のひとつが、教員数の削減。政府は教師の大幅なリストラを計画し、4年間で5万2000人分のポストが削減された時期もありました。
たとえば、フランスの一般的な小学校では、1クラスあたり20人程度の生徒が充てられます。教員の人数が減ると1人あたりの担当生徒数が増え、教育の質が下がることが問題になっています。
これを受けて、裕福な家庭では、クラスごとの人数制限がある私立校へ子供を通わせる傾向があり、経済水準の違いによる教育格差が懸念されています。
また、グランゼコールに入学するには準備学級2年間ぶんの費用が余計にかかります。私立のグランゼコールに通う場合、授業料だけで年間4500~7000ユーロかかることも。
「グランゼコールに入ることができるのは、経済的に余裕のあるお金持ちの子弟だけ」という状況が固定化しつつあることも、フランスの教育システムの課題です。
フランスの教育システムは意外と厳しい!
マイペースなイメージのあるフランスですが、教育システムに関しては、義務教育の段階から容赦ない飛び級・留年措置がとられるなど、意外にシビア。
一方、保育所から大学まで手厚い公立教育が設けられ、機会均等がはかられています。
エリート養成機関であるグランゼコールの存在など、日本とは異なる部分も多い、フランスの学校制度。
フランスに留学する人や、フランスで子育てをする人は、ぜひあらかじめ知識をつけておきたいですね。
(文・Emma Suzuki)